call my name
 ――ズガァン!

 確かに、銃口が火を噴く音がした。
 だが、予想された衝撃は起こらず、かわりに辺りを包んだのは薄緑の光。

「待って……この光、召喚術。メイトルパのだっ!」

 金色の髪をした少女が、辺りを見まわしながら高い声で叫んだ。
 その言葉につられるように目を開けた一同が見たものは……。

「あれは……召喚獣……?」



 そこには、機械兵士の手に飛び蹴りを食らわせている、帽子をかぶった一匹のペンギン、もしくはモグラらしきもの……の姿があった。




 ――何が起こったんだ……?

 あっけにとられて動けない一同をよそに、そのペンギン――もとい、召喚獣はトテトテとに駆け寄ると、「任務完了」とでもいいたげにフン! と鼻を鳴らして腕組みをした。

「え……えっと……?」

 突然現われた謎の生物。しかも、何故か自分の足元に寄ってこられてはあっけにとられたようにその黒い瞳を何度も瞬いた。
 何がなんだかわからないが、どうやら目の前にいるこの生物がゼルフィルドの銃口をそらしてくれたらしい。

「……あ……ありが、とう……?」

  が、混乱する頭でとりあえず思いついたお礼の言葉を口にすると、小さな救世主は何やら満足そうに頷いた。





「――あらぁ、私がなんとかしようと思ってたんだけど……。
そこのテテノワールに先越されちゃったみたいねぇ? 」

 金縛りにあったかのように動けなかった皆は、唐突に響き渡った女の声にはっと顔を上げた。
 声のした方に顔を向けると、いつの間に現われたのだろう、そこには緑のセーターにショートパンツといった出で立ちで杖を構えている女がひとり。
 その姿に、紫紺色の髪を持つ少年と少女がああっと声を揃えた。

「ミモザ先輩!」
「ご〜めんねぇ、新種発見に気をとられてたらすっかり出遅れちゃったわ」

 ミモザ、と呼ばれたその女は、なんとも緊張感のないセリフを口にしてアハハと笑うと、そのままチラリとに目線をうつした。

「ま、でも大事には至らなかったみたいだし?
ここにいる全員、あのコに感謝しなさいよぉ?」

 その言葉に、その場にいた全員の視線がに注がれる。
 突然注目をあびてうろたえるだったが、改めて今の状況を見やると、慌ててイオスに向かって声を張り上げた。

「イオスさん、今っ!」

  の声にはっとしたイオスが、緩くなっていた戒めの手を振り解いて駆け出した。

「――っ待て! 小僧っ……!」

 不意を突かれた剣士が慌てて手を伸ばす。

 ――が。

「そこまでだ」

 姿を見せた黒い鎧の騎士に、再び全員の動きが、止まった。






◆◆◆





「――申し訳ありませんでした」
「我々ノ、先走リデシタ」

 野営地のテントの中。頭を下げる部下二人に、ルヴァイドはこめかみを押さえて嘆息した。

 あの後。これ以上あの場にいるのは失策だと判断したルヴァイドの指示により、 旅団は野営地へと引き返した。
 聖女の傍についている者達は想像以上の手練れだった。加えて今回の騒動で蒼の派閥も動き出すかもしれない。聖女奪取の任務は今後かなりの作戦を要するものとなるだろう――……。
 だが、焦ったイオスの気持ちがわからないわけでもなかった。

「――もうよい。
とにかく、今後は軽はずみな行動は慎むように。いいな?」
「……はっ……申し訳有りませんでした」

 上司の言葉に、イオスはもう一度深く頭を垂れた。

「それに……イオス。
俺以上に、お前に腹を立てている人間がいるかと思うがな」

 ルヴァイドの指摘にイオスはうっと言葉を詰まらせた。

 ……相当、怒っているのだろう。
 いつもにこにこと自分に笑いかけてくれるあの少女が、帰り道、見たこともないような無表情を浮かべて一度も口をひらかなかったのだ。


「早く、謝ることだな」
「……はい……」


 ルヴァイドのテントを出ると、すでに空には月が浮かんでいた。
 ……彼女は、どこに行ったのだろう。


 ――の姿を探して、 イオスは歩き出した。