call my name
 紫のサモナイト石をそっと両手で包み込む。

「……誓約によりが願う。聖母プラーマ、癒しの聖光を……」

 その言葉に応えるように現われたのは、光をまとった霊界の聖母。

 一連の様子を見守っていた旅団員達から、ほぅ……と感嘆のため息が漏れた。
第6夜 離れた手
「――そうか。サプレスとメイトルパの召喚術を……」
「ええ。自分も驚いたのですが……。魔力も、なかなかのものですよ。」

 召喚師の報告に、ルヴァイドはふむ、と頷いた。

 フロト湿原の戦いでテテノワールを召喚した。そのことに興味を覚えた旅団の召喚師が、ものは試しだとに召喚術の手ほどきをしてみたところ、なんと彼女は霊界サプレスと幻獣界メイトルパの術を使いこなしてみせたのだった。

「召喚術を使える者が増えたのは、喜ばしい事ではないかと……」

 敵も召喚師が多いですし、と言う部下に、ルヴァイドはまぁな、と言葉を濁した。

 ――の術に頼らなければならないような戦いはしたくないものだ、と思いながら。







◆◆◆





「えーと……これは、エールキティ?」

 テテが差し出す緑の石に触れて、がそこに誓約されている者の名を口にする。
 の応えにこくんと頷くと、テテはそれを主である少女の右側へと置いた。

「――何してるんだ? 
「あ、イオスさん」

 顔をのぞかせたイオスにがぺこりと頭を下げる。
 会議終わったんですか? と聞くにああ、と返事をして、イオスは彼女の隣へと腰を下ろした。
 と召喚獣……否、あれから誓約を交わし直し、正式に彼女の護衛獣となったテテのまわりには、色とりどりのサモナイト石が散らばっている。
 不思議そうにそれらを見渡すイオスに、があのですね、と口を開いた。

「えっと、サモナイト石の種類を覚えようと思って、テテに手伝ってもらってるんですよ。
合ってたら右に、間違ってたら左に置いて……」

 ね? と言ってが頭をなでてやると、テテは気持ち良さそうに喉を鳴らして目を閉じた。

 緑の生い茂るアルサックの木陰。その根元にちょこんと座り込んで、サモナイト石を並べあう少女とテテノワール。

(……なんだかぬいぐるみとままごとをしてるみたいだな……。)

 なんともほのぼのとしたその光景に、イオスはふっと顔をほころばせた。
 可愛らしいやりとりに、なんだかここが軍の野営地なのだということすら忘れてしまいそうになる。
 そのまましばらくとテテの様子を眺める。すると、視線を感じたのかが顔を上げた。
 イオスと目が合うと、ほんの少しだけ眉間に皺を寄せる。
 思いがけない少女の反応に、少し面食らったイオスがどうした? と目線で問い掛けると、は何かを疑うかのようにじぃっとイオスの目を見つめてから、不機嫌そうな声でぼそっとつぶやいた。

「……おままごと、してるんじゃ、ないですからね?」
「えっ!?」

 いきなり自分の考えを言い当てられて、驚いたイオスが目をまるくする。
 そんな彼の様子を見て、はやっぱり……と肩を落とした。

「……さっき通りかかったルヴァイド様にも、そう言われました……」

 イオスさんで五人目ですと言ってぷぅ、と頬をふくらませるに、イオスはたまらず声を上げて笑い出した。





「でも、私嬉しいんです」

 散らばったサモナイト石を手元の袋に集めながらそう言うに、イオスが顔を上げた。

「……嬉しいって……召喚術を使える事か?」

 はい、と笑顔で頷く
 イオスは、少し複雑な気分になる。

「確かに、召喚術が使えるのは悪い事じゃないが……でも、怖くないのか?」

 君の世界には召喚術はなかったんだろう? と聞く彼に、はそうですね、とちょっと困ったように首を小さく傾けた。

「召喚術というか……魔法っていうもの事体、ありえないことでした。
だから、怖い気持ちがないわけじゃないですけど……」

 話しながら、少女は全ての石を袋に収め、口をきゅっと紐でしばる。
 袋をそっと握り締めて。サモナイト石の入ったそれにまるで愛しいものでも見るかのような優しい眼差しを向けながら、がゆっくりと言葉を続けた。

「――でも、ね。これで、少しはイオスさん達の役に立てるかなって。
攻撃の手助けくらいできるし、回復だってできますし」

 だから、頑張って勉強してるんですよと満面の笑顔を浮かべる。

 ―― 純粋な笑顔。

 伝えたいことは色々あるのにうまい言葉が見つからなくて。しばらく視線を彷徨わせた後、イオスはいつものようにの頭をポンポンと撫でた。

 ……本当は、召喚術なんて使って欲しくなかった。使えなくてよかった。
 何も出来ない少女のままなら、 戦いに連れて行くことだけは避けられた筈なのに。
 しかし、彼女が召喚術を使える以上、今後は少なからず彼女も戦いに同行する事になるのだろう。敵の戦力に対し、旅団に召喚師が不足しているのはまぎれもない事実だ。

 ……それは、彼の望みではないのに。

 けれど、自分達の役に立てるかもしれないという事実をこんなに喜んでいるにそんな自分の思いを告げるのはためらわれて。

「――無茶は、するな」

 いろいろな思いをこめて、イオスはそう、口にした。




「イオス隊長!」

 駆け込んできた旅団員のただならぬ呼び声に、イオスの表情が一瞬にして軍人のそれへと変わった。

「何事だ!」
「はっ、偵察兵からの報告で、聖女一行が動き出したと……」

 野営地が一気に慌しくなる。



 ……また、戦いが始まる。
 は、テテの体をぎゅっと抱きしめた。