call my name
「買い忘れはない?」
「ええと、えっと……はい、大丈夫です!」

 劇場通り商店街と呼ばれているゼラムの大通りを、イオスとは二人肩を並べて歩いていた。

「あの……イオスさん。やっぱり半分持ちますから……」

 ちらりとイオスの手元を見やって、が今日何度目になるであろう台詞を口にする。

「……。僕が持つってさっきから何度も言ってるだろう?」
「で、でも……」

 イオスの両手には左右合わせて六つの紙袋。
 無駄なものを買ったつもりはないのだが、生活必需品を1から揃えるとなるとやはりかなりの量になってしまい。
 ――これは全て自分の荷物なのに、それをイオスに持たせているというのはにとってどうにも居心地の悪い状態だった。

「じゃ、じゃあせめてひとつかふたつ……」

 そう言ってしつこく荷物に伸びてくるの手をイオスがひょいとかわす。

「イオスさぁん……」

 情けない声を出す
 その様子を、まるで聞き分けのない子供みたいだ、とイオスは思う。

「……あのね、
女性に荷物を持たせるほど、僕は男としてのプライド低くないんだけど。
――僕に恥をかかせる気かい?」

 妙に迫力のある笑顔を向けられ、はあぅ……と肩を落とした。



 ――ゴーン、ゴーン……ゴーン……。

「鐘……?」
「ああ、五の刻を知らせる鐘だろう。
……日が落ちてきたな……」

 イオスの言う通り、いつのまにか辺りは茜色に染まり始めている。

「そろそろ戻るよ?」

 イオスの言葉にははい、と頷いた。

「馬を預けている場所、こっちで合ってますよね?」
「ああ、その角を左に……」

 馬の預かり所へと向かう道の途中。ふいに黙ってしまったイオスに、があれ? と首をかしげた。

「イオスさん? ……って、きゃっ!?」

 突然足元にドサドサと置かれた荷物に驚いたが悲鳴をあげる。

「イオスさん? どうし……」
!ちょっとそこで待ってろ!」

 そう言い残し、イオスはどこかへ駆けていってしまった。

「……イ、イオスさ〜ん……?」

 大量の紙袋に囲まれたまま、はぽかんと口を開けてイオスの後姿を見送るしかなかった。






◆◆◆






 ――十五分ほど経っただろうか。

「ごめん、待たせたね」
「わ!」

 どうすることもできず、仕方なくぼうっと辺りを見回していたは、突然耳元で聞こえたイオスの声と首筋に触れた冷たい何かの感触にびくんと身体を震わせた。

「イオスさん、どこに行って……って
……え?  これ……」

 胸元を見ると、そこには緑の石のついたペンダントがあった。

「……これ……?」

 何だろう、と思ってイオスを見上げる。イオスはにっこり笑って自分の手のひらにあるものを見せてきた。
 の胸元に輝くペンダントと同じ、緑の石。
 ……いや、正確にはそれは半球形の石の欠片だった。
 じっとイオスの手元を見つめて、次に自分の胸元にあるそれを見つめて。ややあって、この石の正体に気付いたがあっと小さく声をもらした。

 は、その石に見覚えがあった。

「……イオスさん。これって……」
「そう、サモナイト石だよ。……君を喚んだ……ね」

 ――確かにそれは、何日か前にイオスに見せてもらった『サモナイト石』だった。
 自分を喚んで、ふたつ砕けてしまったという、不思議な石―――……。

「砕けてしまったし、もう効力はないものなんだけれど。お守りがわりくらいにはなるかと思ってね」

  身につけられるように加工してもらったんだよ、と言って、イオスは優しくの頭をなでた。


 ――サモナイト石。
 私をリィンバウムに喚んだ―――……。


「……?気に入らなかったか?」

 黙ってしまったを不安に思ったイオスが彼女の顔を覗き込む。
 気がつくとすぐ目の前にイオスの心配そうな顔があって、の頬に朱が散った。

「い、いえっ違うんです、嬉しいです!」
「そう? なら良いんだけど……」

 ――ふたつに砕けてしまった石。
 ――この石で、私は、ここに喚ばれたんだ…………イオスさんに。


 しばらく考え込んでいたが、はっとした表情で顔を上げた。

「イオスさん、ちょっとそっちの石、貸してもらえますか?」
「え? 構わないが……」

 何をするんだろう、と思いながらも請われるままに石を渡すイオス。
 ありがとうございます、と受け取るやいなや、いきなりが走り出した。さっきイオスが向かったのと同じ方向へ。

「ちょ、おい、!?」
「ごめんなさい、すぐ戻りますからっ!」

 そう言って駆けていくの後姿を、今度はイオスがぽかんと見送る番だった。  






◆◆◆





「はい、どうぞ」
「……?」

 走ってきたのだろう、息を切らせて戻ってきたが差し出したのは、ついさっきイオスが彼女に贈ったのと同じ緑の石のペンダント。

「こっちも加工してもらったんです。
……こっちは、イオスさんが持っていてください」
「……あ、ああ……でも、どうしたんだ?」

 不思議そうな顔をしているイオスに、がはにかんだような笑顔を向けた。

「だってこの石は、私とイオスさんを繋いだ石でしょう?
だったらその……私だけじゃなくて、イオスさんにも身につけていて欲しいなって思って」

 ――その方が、繋がっているって感じがするじゃないですか、と。そこまで言って恥ずかしくなったのか、は顔を赤らめてうつむいた。

 しばらくと渡されたペンダントを見比べた後……イオスの顔に、ふっと優しい笑みが浮かんだ。

「ありがとう、

そう言うと、イオスはまだうつむいている少女の額にそっと唇を寄せた。

「〜〜〜〜っ、イ、イオスさんっ……!?」

 突然のことに、が慌てて額をおさえて顔を上げると、嬉しそうにほほえみを浮かべるイオスがいた。
 触れた柔らかな感触を思い出し、少女は耳まで赤くなる。

「なななな、何、をっ……」
「いや、君があんまり可愛いことを言うから、つい」
「かわっ…………!?」

 涼しい顔でとんでもないことを言われ、の頭がますます混乱する。
 おろおろしている少女に、イオスはもう一度優しい笑みを向けた。

「――ありがとう」





 夕日の中を、行きと同じように馬に乗って帰路を辿る。
 ペンダントの石をぎゅっと握り締めながら、は染まった頬からなかなか熱が引かないのを感じていた。





第4夜 END